生成AI時代にウェブコンサルタントが生き残る方向性

生成AI時代にウェブコンサルタントが生き残る方向性

いつもは、BigQueryやSQLやLooker StudioやTableauについてのテーマばかりですが、今日は「キャリア」について書いています。タイトルのウェブコンサルタントというのは、「クライアント企業のウェブサイトのKGIを改善する(量的拡大、あるいは効率改善)ために、SEO、広告、ソーシャル、Web解析などの知見をもとに有料でアドバイス提供、あるいは運用代行する支援側企業の担当者」を指しています。

この記事の内容が絶対に正しい。

と言っている訳ではなく、「こういう方向にキャリアを伸ばすようにすると、AI時代でも生き残れる可能性が高まるのではないだろうか?」というアイデアの提示であり、提案です。なので、この記事の内容に従う、従わないは自己責任でお願いいたします。が、多少でも今後のキャリアを拓いていく若手の皆さんに参考になれば嬉しいです。

 

生成AIがやってしまうこと

我々ウェブコンサルタントが提供する付加価値の中心にあった「適切な分析によって、合理的な施策を提案する」という部分は、遅かれ早かれ生成AIがやってしまうと思います。「合理的」というのは、「解」が一つに収れんするする性質があります。例えば、人間同士だって、優れたウェブコンサルタントの合理的な施策提案は、時間をかければジュニアのコンサルタントでも同じことが提案できるでしょう。

生成AIも同じです。膨大な「比較的合理性のある」データで学習したLLMですから、現在よりもう少し性能があがり、GA4(というか、集計されていない、GA4がエクスポートしたBigQuery)と直結できたりすれば、目的変数であるコンバージョン(キーイベント)を指定し、説明変数として、経路やデバイスや、時間や、訪問回数や、ランディングページや、ユーザーが閲覧したページ、、、といったデータを与えれば、どの経路からの流入を増やせばよいか、どのコンテンツに改善の余地があるかを出力することはそんなに難しいことではないと思います。

じゃ、俺達失業か?

という不安がよぎると思いますが、そうならないためには、以下の方向でキャリアを伸ばすのが良いのではないかと

 

生き残るための方向性は「越境」と「実行」

結論から言うと生成AI時代に生き残るキャリアの伸ばし方としてのキーワードは「越境」と「実行」だと思います。

 

「越境」というのは、例えば、広告分野「だけ」のアドバイスではなく、広告とソーシャル投稿の両方を勘案したときのベストな提案や、SEO視点から「だけ」のアドバイスではなく、SEOとコンテンツ制作の両方を勘案したときの最適なサイト構造提案など、分野をまたがって、隣接する複数の分野の知見を含んだうえでの提案ができるようになるようなキャリア展開を指しています。

 

生成AIを成り立たせているLLMが学習したコンテンツの大部分はネットの情報、特に、公式ヘルプや、Web担当者フォーラムなどの専門メディアや、個人コンサルタントや支援会社のブログ記事だと思われます。すると、SEOだけ、広告だけのベストプラクティスやツールの使い方については十分に学習している反面、SEOと広告を組み合わせた成果の出し方、Web解析の知見を十分に活かした効果的な広告運用など、複数分野をまたがった「最適解」については学んでいない、あるいは学びが浅いと思われます。「越境」が生き残り手段の一つだというのは、そこが生成AIの弱点なのではないかという考えに基づいています。

 

「実行」というのは、クライアントに提示した提案を実行してもらう力です。クライアントはウェブコンサルタントから貰った提案をすべて実行する訳ではないでしょう。理由は様々でしょうが、貰った提案について実際に実行するのは5割?6割?でしょうか?その率は、コンサルタントの力量によって変化すると思います。そうした力を向上していくようなキャリア展開を指しています。

 

というのは、例えば、ネット上にダイエットについての記事(=正解)はたくさんあるのに、ライザップやチョコザップが存在しうるのは何故でしょうか?YouTubeには膨大な水泳を上手になるためのコンテンツ(=正解)が溢れているのに、それでも、個人の水泳コーチが生き残っているのは何故でしょうか?それを考えると、生成AIがいくら合理的な解を伝えても、人間のウェブコンサルタントが生き残る道はあるように思えます。

 

ライザップが存在し、多数の水泳コーチが行き残るのには、クライアント側の3つの心理が関係していると思います。

一つは、「実績があり、信頼しているあの人が言うのだからやってみよう」という心理です。もう一つは「あの人がこんなに私のために汗をかいてくれてるんだから、私もやらなければいけない」という心理です。3つめは「一般的な正解、一般的な合理解はわかったが、我が社にもそれが当てはまるのか、正解であり得るのか?」という心理です。それらの心理のために痩せたい人はライザップにお金を払い、泳ぎが上手になりたい人は水泳コーチから有料のレッスンを受けるのです。

 

提案された施策を実施するかしないかを決めるのはクライアントの担当者や、その上長を含めた組織という人間の集まりである以上、生成AIがいくら合理的な施策を提案してもそれがそのまま実行につながるとは思えません。クライアントが施策を「実行」する力を増すと、WEBコンサルタントが生き残るチャンスが増えるのではないか?という提案は、クライアントの3つの心理を満たすには人間の力が必要になるのではないかという考えに基づいています。

 

次に、「越境」、「実行」のそれぞれについてキャリアを伸ばすやり方を示します。

 

「越境」できるようになるには

越境できるようになるには、SEOなり、広告運用なり、Web解析なり、自分が一つ専門とする強みを持ったうえで、隣接する分野の専門性、つまり第二の専門性を身につけることが必要です。これは、意識すればそれほど難しくはないと思います。業界が比較的近しいのでSEOコンサルタントが普通に情報収集していれば、隣接分野のニュースは自然と耳に入ってくるし、隣接分野を専門とする知り合いや友人のコンサルタントは自然に増えてくると思われるからです。広告やWeb解析もしかり。

 

ですので、基本的にはアメーバのように「隣接分野の知識を貪欲に吸収する姿勢を持つこと」、「自分の第一の専門分野に引きこもらない姿勢を持つこと」が重要だと思います。ただ、第二の専門性について、クライアントからお金をいただいてサービス提供できるレベルになるのは時間がかかります。もし、自分が勤務する会社が、SEOも、広告も、Web解析もサービス提供しているという場合には、部署異動がもっとも有効な「第二の専門性を有償レベルで提供できるレベルになる」チャンスになると思います。

 

フリーランスで働いているとか、自分の会社はSEO専業だよ、、、というような場合、部署異動という手段は採用できません。そこで、第二の専門性については自力で磨く必要があります。その場合、動画や書籍で勉強を重ねるとともに、実践としては、以下のような方法が考えられるでしょう。

 

  • 第二の専門性の分野についてブログなどで情報発信し、「その分野の人でもある」ということを認知してもらう
  • 自分でサイトを運用し、第二の専門性でパフォーマンスを改善する(改善したらブログを書く)
  • (比較的ジュニアのうちは)第二の専門性の知り合いの会社などに格安、あるいは無料でサービス提供する(成果がでたらブログを書く)

 

「クライアントに施策を実行してもらう力」を向上するには

クライアントに提案した施策を実行してもらう力を向上するのは時間がかかります。専門性の高さに加え、全人格的な信頼が必要になるからです。それでも、ヒントとなるような取り組みとしては以下があるかと思います。

 

  • 自分をブランド化する:ブログ執筆、イベント登壇、メディアへの寄稿、ヘルプフォーラムでの回答、(チャンスが有れば)書籍の執筆などで、自分をブランド化する方向で努力をすると良いでしょう。クライアント側にはコンサルタントの真の実力を知るすべはありませんので、そうした対外的な露出によるブランド化で、「あの人が言うのだから・・・」と思ってもらう力は高まるでしょう
  • クライアントになりきる:クライアントのウェブサイトとIR情報について熟読する。とくに「中期◯年計画」が発表されていればそれは読み込み、その計画の中でのウェブサイトの役割を言語化してクライアントに提示する。そうした努力はクライアントに「自社のことをこれだけ考えてくれる」という心理を生み出し、信頼を増すことになるでしょう
  • クライアントのお客様になってみる:商品やサービスによっては難しい場合があるものの、可能であれば、商品やサービスは買ってみる、使ってみる。それにより、クライアントの強み、弱みをお客様目線で体感しておく。そうした「外の目」を持ち込むことで、クライアントは「自社にはない視点」が持ち込まれたと感じてくれるかもしれません。
  • 選択肢を複数持ち優先度とともに提示する:クライアントが「この施策は実施しよう」と意思決定する場合、課題の認識→複数の解決策の入手→それぞれの解決策のプロコンの検討→一つを選択して実行というステップを踏みます。そのうち「複数の解決策の入手」、「それぞれの解決策のプロコンの検討」あたりが、クライアント単独でも難しいですし、生成AIを利用しても難しいと思います。それを提示できるコンサルタントは信頼感が増し、クライアントに施策を実行してもらう力が向上すると思います。そうなるには、複数分野のコンサルタントを束ねてサービス提供する際のプロジェクトマネージャーとなるのが早道だと思います。

 

また、上記のような「クライアントの担当者の方に寄り添う」力を増すような努力とは別に、ある程度年齢があがったのであれば「クライアントの経営レベルの役職者」からの信頼を得る力をつけないと、相手にされなくなり、施策を実行してもらうどころか、会社同士のお付き合いすら難しくなると思います。それには「大局観」を提示する力が必要です。

 

例えば「今後のウェブは、大きい流れとしてはこうなっていく」といったウェブ全体の話や、「クライアントがDEIを大事にするための取り組みが、◯◯のためにお客様に十分知られていないのが問題だ」といった広義のマーケティングについての一歩引いた目線での指摘や、「クライアント企業がお客様に提供する商品やサービスを、便益面からではなく意味の面から定義し、その意味をマーケティングで効率的に伝えるメッセージを提案する」など、お客様への提供価値についての便益から意味への翻訳者の役割をするといったことです。

 

これこそ一朝一夕ではできませんが、リベラルアーツを学習する(しなおす)ことで教養を高め、人間が普遍的にもつ「こうありたいとする姿」を再認識し、それをクライアント企業やそのお客様に引き直すことで、大局観をもった提案なり、姿勢を見せることができるようになるのではないかと考えています。