知り合いの若手、渋谷泰一郎さんが「ニコニコと笑いながら自らを解体する」という記事を書いていました。
生成AIの進化で、Google Analyticsなどのツールに精通していることで頂いていたお金はなくなる。だから、危機感は持ちつつも、ニコニコと笑いながら自らの経験や成功を解体して、次のステージに行く。そういう趣旨の記事です。
いい記事だなと思いました。変化から目をそらさず、前向きに壊しにいく姿勢には大賛成です。環境の変化が激しい時には、それまでのスキルや体験を「アンラーン」するべし。という文脈にも完全にマッチしていますしね。
そのうえで、(頼まれてもいない、勝手な)返歌として、私なりの考えを書いてみたいと思います。
解体するのは「自分」でなくていい
「自らを解体する」と聞くと、自分が積み上げてきたものを全部壊して、更地から建て直すようなイメージが浮かぶかもしれません。それはちょっと、苦しすぎる気がします。
私の提案はこうです。
解体するのは「自分」ではなく、「自分の仕事」。
仕事は、10も20もの要素からできている
外から見ると、私は「ツールにちょっと詳しいことをお金にしている人」に見えると思います。ツールとは、GA4や、Tableauや、BigQueryや、データポータル。私自身、ま、そう見られるんだろうな、とは思います。
でも、例えば、「ウェブ解析でお金をいただく」という仕事を実際に解体してみると、ざっと挙げるだけでも、これだけの要素が出てきます。
- 計測の設計(何を、どう取得するか)
- 管理画面の操作
- データ構造の理解
- SQLでの集計・分析
- 可視化とレポーティング
- クライアントのビジネスの理解
- ヒアリングして、課題を言語化する力
- 施策の提案
- 提案を「実行してもらう」力
- アウトプットへの説明責任
- 積み上げてきた信頼
一見、一つのツールが得意なだけに見える仕事の配下に、実はこれだけ多くの要素が存在している訳です。これは、ウェブ解析に限らず、どんな仕事でもそうだと思います。仕事が、たった一つの要素から成り立っているということは、まずないのではないでしょうか。
全部が一斉に陳腐化することは、まずない
そして、ここが大事なところだと思うのですが、仕事を構成する10も20もの要素が、全部一斉に、急速に陳腐化するということは、まず起きないと思います。自動車が登場した時、確かに馬車の御者の仕事はなくなったのでしょうが、それは「馬車で人を運ぶ」という要素が陳腐化したためであって、例えば「ロンドンの道にやけに詳しい」という要素は、陳腐化しなかったはずです。(だから、望めばタクシーの運転手さんという仕事には就けたのではないかな?)
たしかに、管理画面の操作や、定型的なSQLの記述や、レポートの作成は、AIに代替されていくでしょう。というか、もうかなり代替されています。
でも、クライアントの話を聞いて課題を言語化すること。複数の選択肢から一つを選ぶ意思決定。組織を動かして施策を実行してもらうこと。そして、アウトプットに責任を持つこと。このあたりは、AIが来ても、そう簡単には代替されない気がします。
つまり、やるべきは、自分の仕事を要素に解体して、「AIに代替される部分」と「代替されない部分」に仕分けすることです。絶望の作業ではなく、棚卸しです。
残った要素で「再構築」する
仕分けが済んだら、代替されない要素を持って、仕事を再構築します。
さらに言えば、そこに新しい要素を一つ、二つ加えたいところです。たとえば「AIに的確に指示を出す力」や「AIの出力を検証する力」、「AIでアプリやエージェントを作って仕事を自動化する力」などです。代替されずに残った要素と、新しく加えた要素を組み上げれば、それは以前の仕事の劣化版ではなく、新しい仕事になります。
「ツールの知識でいただいていたお金」は、たしかになくなるかもしれません。でも、それは仕事全体のうちの一要素が入れ替わるということであって、仕事のすべてが、ましてや自分自身が無価値になるということではないと思うのです。
ニコニコできる、もう一つの根拠
渋谷さんは、成田悠輔さんの言葉を引いて「ニコニコと笑いながら」解体しようと書いていました。
その「ニコニコ」に、私からもう一つ根拠を足したいと思います。それは、実際に解体してみると、手元に残る部品が意外に多いと分かるから、です。そして、むしろ、自分の仕事を構成する要素のうち、これまで「面倒くさいなぁ」と思っていた作業が陳腐化して、やらなくてよくなる。(やってもお金にならなくなる。)ということが分かるからです。
全部失うと思っていたのに、仕分けしてみたら、消えるべき部品は、まあ、消えた。だが、大事な部品はまあまあ残っていた。それが分かれば、前向きな希望が湧いてくるのではないでしょうか。
というわけで、解体、おすすめです。
ただし壊すのは、自分ではなく、仕事のほうを。ニコニコと笑いながら。